── 事業性融資推進法施行が開く、中小企業と金融機関の新しい関係

◆ 何が変わったのか ── 長年の融資慣行への問いかけ
 2026年5月25日、「事業性融資の推進等に関する法律」(以下「事業性融資推進法」)が施行されました。2024年6月の成立から約2年。この間に金融庁は施行令・ガイドライン・監督指針改正・コベナンツ(財務制限条項)ひな形・信用保証制度との関係整理に至るまで、関連資料を一式整備して同日付けで適用を開始しています。周到に施行準備が重ねられたことからも、政策当局が本気であることを示しています。

 法律の目的は明確です。「不動産を目的とする担保権又は個人を保証人とする保証契約等に依存した融資慣行の是正及び会社の事業に必要な資金調達等の円滑化を図り、会社の事業の継続及び成長発展を支える」ことです。

 制度の核心は「企業価値担保権」の創設です。有形資産(不動産・設備等)だけでなく、ブランド価値・顧客基盤・知的財産・契約資産といった無形資産を含む事業全体の価値を担保とする、新しい担保制度です。信託会社が担保権者(受託者)となる仕組みのため、銀行のほかベンチャーキャピタルや再生ファンドとの協調融資にも対応します。また、企業価値担保権が設定された場合は、経営者保証の利用が制限される設計になっています。

 本制度の導入により、①担保となる有形資産に乏しいスタートアップへの融資 ②経営者保証が事業承継・挑戦を阻んでいる中小・中堅企業への融資 ③事業再生・再構築 ④M&A・プロジェクトファイナンス等において活用が期待されます。

 融資後の関係性についても、新制度には重要な設計があります。コベナンツ(財務制限条項:借入期間中の財務モニタリング指標)の合意・活用により、事業変調の予兆を早い段階から事業者と金融機関が相互に確認してコミュニケーションを取る仕組みが法制度に組み込まれています。課題が小さいうちに早期対処を可能にする「対話型金融」への転換であり、従来型の「担保があるから貸す」という受動的な関係を、「事業の行方を共に考える」能動的な関係へと変えようとするものです。

◆ 「事業の将来性」を担保するために、経営者がすべきこと
 この法律は、金融機関にだけ変化を求めているのではありません。むしろ、事業会社の側にも、同じく準備と意識の変容を促しています。
 
 金融機関が事業性を評価するということは、経営者が「自社の事業は何が強みで、今後どう成長するのか」を、根拠を示しながら定量・定性の両面で語れる状態を作っておかなければならないということです。決算書を渡して結果を待つ、という受け身の関係は、新しい制度のもとでは通用しなくなっていきます。
 
 具体的には、三つの準備が重要です。
第一に、財務情報の「見える化」の前倒しです。月次試算表の早期作成・整備、仕入コストと粗利の品目別把握、キャッシュフローの見通しの数値化。これらは「融資のための書類」ではなく、経営の現状認識の基盤です。事業性評価の土台は、まず足元の数字を自から客観視することから始まります。

第二に、「事業の将来性」を言語化・数値化する習慣です。中期の売上・利益計画、主要顧客・市場の変化の見通し、競合との差別化ポイント──これらをまとめた資料は、金融機関との対話の「共通言語」となります。完璧な計画書でなくても構いません。「自社の見通しを自分の言葉で語れる準備があるかどうか」が問われます。

第三に、金融機関との対話の姿勢そのものを能動的に変えることです。事業性融資推進法が施行された今、「うちの会社にこの制度が使えるか」「経営者保証の解除を相談したい」と自ら申し出ることは、決して場違いな要求ではありません。むしろ、法の趣旨に沿った、正当な行動・対話の第一歩です。

事業承継を考える経営者・後継者候補の方にとっても、この制度は直接的な意味を持ちます。企業価値担保権の設定によって既存の経営者保証が代替されれば、承継に向けた検討にも踏み出しやすくなります。

◆ 金融機関との関係は、事業パートナーシップの時代へ
 筆者が金融機関勤務時代に米国駐在した際には、今回の制度が参考にした米国の全資産担保融資制度の実務を現場で多数経験しました。そこで目の当たりにしたのは、事業者と金融機関が事業計画をベースに双方で進捗認識を共有・協議しながら、資金ニーズの変化や返済進捗の変調に対してスピード感を持って柔軟に対応するダイナミズムでした。「物的・人的な担保」ではなく、「事業が将来生み出す利益・キャッシュフロー」に双方がフォーカスする(焦点を当てる)ことで、あたかも事業パートナーのような関係にあることを実感しました。

 この制度が仕組みとして根付いてゆくには、金融機関・事業者双方において事業パートナー視点からの信頼関係の発展的な再構築が求められます。彩羽経営アドバイザリーは金融機関の視点と事業会社の現場実務視点を合わせ持つ立場から、金融機関とのより良いパートナーシップを築くための対話と準備を支援してまいります。「何から始めるか」「自社はこの制度の対象になるか」「今の金融機関との関係をどう変えていくか」──まずはお気軽にご相談ください。

【コラムのポイント】
① 事業性融資推進法(2026年5月25日施行)は、不動産担保・経営者保証依存の融資慣行を転換し、事業の将来性に基づく融資を制度的に後押しするものです。
② 新設の「企業価値担保権」は有形・無形資産を含む事業全体を担保とします。設定により経営者保証の利用が制限され、ベンチャー企業経営者や事業後継者の資金調達選択肢の拡大につながります。
③ 制度を活かすには、事業会社側の準備が欠かせません。財務情報の「見える化」、事業の将来性の言語化・数値化、そして金融機関との能動的な対話姿勢が問われます。
④ 「自社にこの制度は使えるか」「経営者保証を外せるか」「何から始めるか」。中立的な外部専門家との予備的な対話が、実行計画への第一歩です。

【参照資料・出典】
・金融庁「事業性融資の推進等に関する法律説明資料」(2024年7月19日公表)
 https://www.fsa.go.jp/news/r6/sonota/20240719/02.pdf
・金融庁「企業価値担保権(旧:事業成長担保権)について」(制度解説ページ、2026年5月25日最終更新)
 https://www.fsa.go.jp/policy/kigyoukachi-tanpo/index.html
・金融庁「事業者と金融機関の信頼関係に基づく事業性融資に関する基本的な考え方」(案)公表(2026年4月10日、5月25日適用)
 https://www.fsa.go.jp/news/r7/sonota/20260410/20260410.html
・金融庁「事業性融資の推進等に関する法律施行令(案)」等のパブコメ結果(2026年5月25日施行)
 https://www.fsa.go.jp/news/r6/sonota/20250430-2/20250430.html