── コーポレートガバナンス・コード改訂が中小・中堅企業の経営に問いかけるもの
◆ 「守り」から「攻め」へ ── 第三次改訂が示す方向転換
2026年4月10日、金融庁と東京証券取引所は、コーポレートガバナンス・コード(以下「CGコード」)の改訂案を公表し、パブリックコメントの募集を開始しました(締切:2026年5月15日)。2015年の初版適用、2018年・2021年の改訂に続く第三次改訂案です。
今回の改訂案の標題は、ずばり「成長投資の促進に向けたコーポレートガバナンス・コードの改訂について」です。
過去の改訂が独立社外取締役の設置比率やサステナビリティ情報開示など「体制整備」を主眼としていたのに対し、今回は経営資源の「使い方」──すなわち投資の実行と成長の実現──に照準を定めている点が、大きく異なります。
この点、高市政権が掲げる成長戦略ビジョンとも呼応する内容と言えるでしょう。
改訂案が取締役会の役割として明記したのは、大きく三つの論点です。
第一に「会社の目指すところに向けた成長の道筋の構築」、第二に「成長投資(設備・研究開発・人的資本・知的財産等の無形資産への投資等)や事業ポートフォリオの見直しを含む経営資源配分の具体的な説明」、第三に「策定・公表した経営戦略や経営計画に照らした経営資源配分の不断の検証」。
形式的な体制整備ではなく、実際に成長に向けた意思決定と実行を繰り返すことを上場企業に求めるものと言えます。
また、有価証券報告書の定時株主総会前開示の促進(最低でも3週間前が望ましいとされる)や、独立社外取締役の機能強化、取締役会事務局(コーポレートセクレタリー)の整備なども盛り込まれました。
上場企業は遅くとも2027年7月までに改訂コードに対応したコーポレートガバナンス報告書の提出が求められる見通しです。
◆ 中小・中堅企業に問われる「成長の説明責任」
「うちは上場していないから関係ない」──果たして本当にそうでしょうか。
上場企業を対象とするCGコードですが、中小・中堅企業にも大きく関係してくるであろう理由が少なくとも三つあります。
第一に、取引先・金融機関・採用市場における「ガバナンス水準の可視化」が進むことです。上場企業が自社のガバナンス・成長投資方針の開示を強化するにつれ、サプライチェーン上流に位置する中小・中堅企業に対しても、取引先から同様の経営透明性を明示/黙示的に求める動きが広がる可能性があります。
すでに大手メーカーや商社が取引先に対してESG調査票の記入を求めるケースが増加していますが、この流れはガバナンス領域にも波及することは想像に難くありません。
第二に、資金調達コストへの影響です。地域金融機関は、融資先の経営の透明性・持続可能性を評価する「事業性評価」を深化させつつあります。経営計画の有無、経営資源配分の考え方、後継者育成の状況……これらはまさにCGコードが上場企業に求めているものと重なります。ガバナンスの「見える化」は、融資条件にも長期的に影響してくるでしょう。
第三に、そして最も本質的な点として、CGコード改訂が示す「攻めのガバナンス」の考え方は、企業規模を問わず適用できるものだということです。
改訂案は、「守りのガバナンス」だけではなく健全な企業家精神の発揮を促し、「稼ぐ力」の向上を目指す「攻めのガバナンス」の実現を主眼に置いていると明言しています。
これは中小企業においても問われ続けてきた命題に他なりません。
では、具体的に何をすべきか。改訂案のエッセンスを非上場企業向けに読み替えるなら、以下の三つのアクションが浮かび上がります。
① 「成長の道筋」を言語化し、社内外に示す。
事業計画・中期経営計画の策定・更新は、形式的な書類作成ではなく、「何に投資し、何を諦めるか」の経営の意思表示として更に重要性が増すことになります。
② 「経営資源の配分」を可視化する。
ヒト・モノ・カネをどの事業・機能に、どういう優先順位で投入しているか。その根拠を経営者自身が語れる状態を作る。借入金も含めた資本の使い方に「説明責任」を持つ感覚は、上場・非上場を問わず経営の質を問われることにつながります。
③ 「取締役会(あるいはそれに相当する意思決定機能)」の実質化を図る。
たとえ家族経営であっても、外部の視点(顧問・社外役員・税理士・金融機関担当者等)を意思決定プロセスに直接、あるいは間接的に組み込み、「執行」と「監督」の機能を意識的に分離する。これにより健全で持続可能な組織としての信頼を高めるステップにもなるでしょう。
◆ 経営者として、今こそ問い直したいこと
これまで「ガバナンス」と言えば「企業統治」と硬いイメージが先行し、往々にして大企業に必要な「コスト」だと捉えがちでしたが、今回のCGコード改訂が示す問いは、むしろ経営の本質に触れるものだと考えます。
これまで関わりを持たせて頂いた企業・経営者の中でも、長期にわたり安定した成長を遂げてきた組織や経営者には、共通の思考・行動様式がありました。
「なぜその投資をするのか」「3年後、5年後に何を変えたいのか」を、課題とその解決策に分けて自らの言葉で語ることができたということです。
翻って、経営の行き詰まりを感じているケースでは、「取引先からの発注次第」「前年比でプラス数パーセント(マイナス数パーセント)の期待値」など、前例踏襲で計画を作る例が少なくありませんでした。
業界構造や自社の置かれた立場などから「自社には当てはまらない。当てはめ様がない。」との声も聞こえてきそうです。
しかし、CGコードが上場企業に突きつけているのは、広くすべての企業に対する「過去の慣習の上にある経営」からの脱却への問いかけではないでしょうか。
御社では今年、どの事業に、どのくらいのヒト・モノ・カネを振り向ける計画でしょうか。
その判断を、社員に・銀行に・後継者に、説明できるでしょうか。
コードの改訂はまずは上場企業に向けた話であっても、その問いは間違いなく、すべての経営者に向けられています。
